中敷きがズレてくような日々

煩悩、戯言の半径30cm

本当の夢の舞台を掴んだその日 天皇杯準決勝 ヴァンフォーレ甲府vs鹿島アントラーズ 2022.10.5

一夜明けても、まだどこかふわふわした気持ちのなかにいる。

あのヴァンフォーレ甲府天皇杯の決勝に行った。
鹿島アントラーズなんかをやぶってしまって。

いやたしかに昨日の鹿島はタイトル目の前に来たら死に物狂いで取るぞ!というようなどこから出てくるのかわからない『これが鹿島』としか言いようがないあの迫力が感じなかったのはたしかだ。
でも個人能力はやたら高いし、決定機も作られたし、鈴木優磨のシュートスピードはJ1の中でもトップクラスの質だった。なんなら1回ネットも揺らされた。オフサイドによって助かったが。

だとしても、この結果はすごすぎる。

そもそもこのベスト4にいること自体が初めてであり、前回のベスト8の段階でもかなり興奮しているくらいだった。
そのくらい甲府というチームがそこにいるのは信じられないことだ。

 

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ピッチに選手が並んだとき、「夢みたいだな」と思った。口走りそうになったがその言葉を飲み込んだところで試合がはじまった。

前半から割とやれてる印象だった。
集中力も高く、こぼれ球にもしっかり反応出来る。
プレス回避のパス回しに関して言えば「さすが吉田達磨(監督)」というようなことも思った。

9分に自陣のサイドで鹿島にフリーキックを与える。その時に審判団の無線に機材トラブルが起こる。
長々と続くその時間に抗議し出す鹿島の選手とサポーターにベスト4という舞台を何度も何度も戦ってきた証を感じた。
ある種、集中を切らさないための手段なのだと思う。

こういう集中の切れた時間の後の相手のフリーキックは何かが起こってしまったりもするのは常だ。
試合再開のフリーキックで鹿島はゴール前に蹴り込むわけではなく、横パスを一度挟むサインプレーをしてきた。
ここでサインプレーを選択出来る余裕にもJ1を感じた。

そんななか21分に三平がネットを揺らすもオフサイド。ボールを持った段階から自分でもオフサイドの認識があったのではないかという空気だった。
その後も崩される場面はあるものの、やれてる感覚があったので前半のうちに1点取りたい試合になってきた。
マンシャ、浦上、須貝をはじめとした守備陣がよく身体を投げ出して対応していたのはかなり感心していたが、後半に鹿島に火力を上げられたら崩れそうだと思った。45分イーブンの状態でこれを続けたらさすがに厳しいだろうと。

そして37分、最終ラインの浦上のパスに抜け出した宮崎純真がキーパーをかわして冷静に流し込む。待望の先制点。先日のリーグでの大分戦では同じ場面で外してしまった純真だが、今回は決めてくれた。
純真は相手の壁面をドリブルでぶっ壊してくれて最高に好きな選手なのだが、足りないのはゴールという結果だけなのだ。
そんな純真が決めた。
喜びのなか現実なのか?とも疑い、素直に喜べているのか分からない自分もいた。
ピッチでは甲府の選手たちが嘘みたいに歓喜の輪を作っている。
前半はなんとしてもリードで終えたいなか、機材トラブルのせいでの6分という長い長いロスタイムが用意されていた。
それも終わりかけのとき、鹿島のアルトゥールカイキがゴール前でボールを持ちブロックに入った須貝の右足がカイキにかかりそうだった。須貝が足を引いたのが一瞬見えた。
ペナルティエリアに差し掛かっていたとこだったのであのままいってたら上手いことファールをもらってPKにされていたと思う。危なかった。

1-0、甲府のリード。耐え凌いだ。

さすがにまだこのままでは終わらないだろうという感覚はあった。


後々の記事で見たのだが、宮崎純真のゴールシーンでボールを受けたとき
三平から「オフサイドないぞ!」という声が聞こえてきてまたひとつ冷静になれたと言う。
おそらく先ほどの三平自身のシーンも含めてのことだったのだろうと推察するのだが、やはりこの選手の影響というのは見えない部分でもあるのだろうと思える。三平は価値の高いベテラン選手だ。


後半開始から鹿島は2人の選手を交代。
岩政監督になってから取り組んでいたダイヤモンド型の中盤から、鹿島馴染みの横並びの4-4-2に変更してきて前線のターゲットとしてエヴェラウドを入れてきた。

後半の甲府はそんな鹿島に5-4-1の横並びブロックを敷いて防戦一方。
鹿島に試合通じて18本のシュートを浴びたようだがそのかなりの割合が後半だったのではないかと思う。

さすがに45分これは持たないと思っていたのだが、甲府がJ1にしがみついて残留し続けていたあの頃を思い出すような、そんなドン引くブロックを見せていた。なんだか懐かしい気持ちにもなったが、これで耐えれるならばこれでもいい。
そしてどちらかと言うと先述したが、それより鹿島に迫力がなかったと思えた。

後半のロスタイムは4分。
前半より短いことでどこか心に余裕があった。
2分過ぎた頃にリラが欲を出してゴールを狙いに行こうとしたが、スタンドのサポーターからも「外に逃げろ!」「時間使え!」という声が飛び、リラが体制を崩しながらサイドにパス逃げる。
昨年は10点、今年も8点取っているのに非難に晒されがちなリラ。コンディションも上がってきていて、サポーターに印象を与えられるような結果が欲しいのも大いに気持ちが分かったのだが、それで1回勝ち点を逃した試合をリーグ戦でしているので学んでくれていた。よかった。リラ悪い、今日はそこに徹してくれ。

ラストプレーで鹿島のキム・ミンテの強烈なボレーシュートがあったが、これを甲府在籍10年目の守護神・河田晃兵がファインセーブ。

試合終了。

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雨のカシマスタジアム歓喜の渦だった。
隣の人は「ありがとうー!!」と叫んでいた。
きっとみんなそう。
小さな田舎町の弱小クラブだ。近年はJ2生活に浸かってきて、お客さんもどんどん離れている。そんなクラブで「生きてる間にJ1で優勝出来たらな」「生きてる間に決勝とか行けたらな」と思っていた。

生きてる間に。

まさかこんなに早くその瞬間が訪れるとは、そして今年だとは思ってもなかった。

なんせまだJ2の残留すら決まっていない。22チーム中18位のチームだ。
現在も21年ぶりの6連敗を喫している最中。
そんななかリーグ戦の反省を活かすかのような展開があらわれて、天皇杯はすべて勝ち進みクラブ史上初の決勝の舞台まで辿り着いた。

試合前に口走りそうだった「夢みたいだ」という言葉を飲み込んだのには、その先にある未来を案じていたのかもしれない。

帰りのバスで隣になったおじさんは東京駅で降りる前、小声で自己暗示のように「勝った勝った勝った勝った」と連呼していた。

あと10日後。

10月16日、決勝、日産スタジアム
相手は長年良い選手を引き抜かれ続けて、甲府のサポーターが1番恨みがあるのではないかと思われるサンフレッチェ広島

日本代表にも辿り着いた佐々木翔稲垣祥(稲垣は名古屋グランパスに移籍済み)
山梨県出身選手で大卒1年目から人気が手厚かった柏好文、今津佑太

特に佐々木と柏はプロ1年目から甲府で見てきている選手。
佐々木がJ1で空中戦勝率1位になったこと、柏がドリブル数ランキングで1位なったこと。
それを学校帰りのサッカーマガジンかダイジェストで読んだときを鮮明に覚えている。
もちろん2人がプレーしているのも見てきた。柏がめちゃくちゃシュートをふかして外してきた時期も知ってる。

そんな2人とも30歳も超えたベテランになったが、今も試合に出場し続けている。広島で一時代を作ったと言ってもいい2人だ。
今の柏好文はシュートも上手くなった。

こんなところで再会するとは思っても見なかった。
(今津は移籍してからなかなか試合絡めてないけど頑張れ。同じ年だしかなり応援してる。)

そして今の広島の中心は昨年ほとんどの試合に出場し甲府のJ2 3位に貢献してくれて、今年は日本代表に選ばれていた野津田岳人だ。

そんな甲府にとって1番の因縁の相手であるサンフレッチェ広島と決勝で戦えるのはとても光栄に思える。

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https://twitter.com/nhk_soccer/status/1577657556570365952?s=21&t=kbengYy17OchPdJ38TfCiQ

勝っても負けても夢みたいな日だ。存分に味わおう。