中敷きがズレてくような日々

煩悩、戯言の半径30cm

パープル・ゲンガー

これまでの生活でよく寝ていたのでいつもの睡眠時間に戻ると目覚めが悪い。
しばらく起き上がれないでいた。

咳も治る気配なく、音の密度も濃いおっさん咳のようになってきた。喉も焼けてきている感じがあって、これは仮にクセになっていたとしても、そろそろやめないと。

ベットから降りるとピキッと音が鳴った気がした。膝が痛い。太ももも張っている。

少しだけストレッチしたり、咳に効く薬を飲んだりしていた、時間がそろそろまずい。

自転車を漕いでいく。

徒歩なら20分ほどかかるが、自転車なら5分で行ける。

間に合っただろ!と思っていたが踏み切りのところで車の渋滞。
ここを横切らないといけないのだが、さすがに危ないので車が切れるまで待つ。

時間を見たら残り2分。ホームに列車が来る音が聞こえる。

走れば間に合う!これまでも何度もやれてきた!

走って階段をかけあがり、改札を通って、階段を駆け降りる。

エスカレーターと階段があるがこういうときは階段を使う。
階段の方からなら車窓さんに自分が降りる姿を見せることが出来るので、乗れるまで開けておいてくれるのだ。

この優しさに何度も助かってきた。それに何度もあやかってきた。

しかし今日は改札を通ったところでドアが閉まる音がした。まさかと最後まで信じて階段を駆け降りるも、すでに閉まっている。

次の電車までは13分後。
しかも到着してから残り4分で出勤しなければならない。

もちろん猛ダッシュしないと間に合わない。

息もすでに切れているので呼吸を整える。
ここ2日間よりは天気も悪く涼しい日だが、汗が噴き出ているので、通過する電車の風を身体に全力で浴びて乾かす。

到着するまで落ち着いて、くるりを聴く。
明日またライブで観れるんだな…なんてことを考える。
電車に乗ってる間はどうあがいても早くならないのだから、呑気でいい。

そろそろ着く頃にソワソワし出す。
ドアが開くのはどっちなのかを念入りに確認。
進行方向の左が開くんだな、よしよし。
到着が1分遅れていて、11時12分。
残り3分。駆け抜けるしかない。

降りてから誰もいない道を全力で走り出す。

雨が降っていることを察して、職場にほぼ直通の地下鉄出口まで抜けていく。
出口付近のエスカレーターの列で詰まって、急ブレーキすると、真横に紫髪のゴシック系ファッションをしている同じ職場の人がいた。

あれ?間に合うのか?

走ってる自分の方がおかしい気がしてきたのと、遅刻しそうで走ってる自分を見られるのが恥ずかしくて、少しスピードがゆるんだ。

ドアを開けると、朝礼が始まった。

間に合わなかった…急いで朝礼の列に並ぶ。
走ってきた分、汗が噴き出て止まらない。
メガネに汗粒がついてくる。
汗粒の間から列を見たら、紫の髪が見えた。

え。

さっき地下鉄出口で真横にいたはずの人が並んでいた。

どうやって間に合ったんだ…あそこで歩いていたのに…

朝礼が終わり、誰に咎められるわけでもない。遅刻はいつもそういうものだ。
でも待てよ、あの人が間に合っているということは俺も遅刻してなかったのではないか?
そんなわけないがそんな気持ちが出てきて、まるで遅刻していないように振る舞いを続けた。

コロナになってしばらく会っていなかった人たちに軽いご挨拶を済ませて、椅子に座る。
隣にたまたまその人がいたので、「え、今日何分前に着きました?」と聞くと、「普通に10分前とかに着きましたよ。」

紫髪で、ゴシックで、人違い…?マジか…?

今日は早々に忙しなく働くことをやめ、誰にも干渉されにくい店舗の隅っこでゆっくりとすることにした。